Team Fortress 2、あるいは愛すべきロクデナシどもの追憶

Team Fortress 2のロゴ エッセイ
Team Fortress 2のロゴ

俺の人生を変えたのは、アホでバカな殺し合いを繰り広げるオッサンたちだった。

Team Fortress 2。「自分の人生を変えた、ターニングポイントとなったゲーム」と言われて、これをあげないわけにはいかない。初めて触れた洋ゲーにして、Steamをインストールするきっかけになった一作だからだ。2012年からのおよそ8年間、俺はこのゲームにどっぷり頭のてっぺんまで浸かっていた。

Team Fortress 2(以下TF2と略します、長いんで)ってどんなゲーム?

と聞かれたら、答えは以下の通りになる。

  • チーム戦にフォーカスしてデザインされた、初心者でも勝利に貢献できるゲーム設計。
  • コントロールポイント、キングオブザヒル、ペイロードといった多彩なゲームモード。
  • カートゥーン的なデフォルメが効いたシンプルなアートスタイル。
  • 基本無料。課金で着せ替えアイテムなどが買える。
  • ゲーム内においてハッキリした役割を持つ、性格もデザインも魅力的な操作キャラクター。
  • しっかり練られた背景設定と共にコミックや動画で公開されていく、ユニークなバックストーリー。

どっかで聞いたなあ、何バーウォッチなんだ……って思った? あのゲームも最近2出たよね。でも違います。こっちのほうが9年早い。最初にリリースされたのはなんと2007年だ。

まあ、オーバーナントカと比べると、TF2はなんというか、お上品なゲームとは口が裂けても言えないっていうか、直球でお下劣である。なにしろ、ゲームしてると操作キャラがことあるごとに罵詈雑言をぶっ放す。いちいちキーボードを打たなくてもキルした相手を自動で煽れる親切設計!

他にも公式設定であるキャラがあるキャラの母親と不倫してたりするし、コミックでマジで何の脈絡もなく全裸になってハチミツを「着る」オッサンもいるし、本当に本当に最悪なことに、ビンに詰めたお小水が武器として実装されてる。書いててなんだけどマジで最悪だな!? レーティングの「M 17+(17歳以上対象)」も伊達ではなく、操作キャラがロケットランチャーやグレネードで爆散すれば、血も手も足もモツも飛ぶ。

ここまで書くと、「開発チームは頭のネジが100本くらい抜けてたの?」みたいなトンデモゲームに思えるが(いやまあトンデモではあるんだけど)、TF2は対戦FPS史上において傑作の呼び声高い一作なのだ。TF2以前の対戦FPSでは上手いプレイヤーが一人勝ちしがちだったが、TF2では9人いる操作キャラの性能を意図して極端に偏らせることでバランスを保っている。他にもさまざまな工夫が凝らされているため、FPSも対戦ゲームもまったくの初心者というプレイヤーでも簡単にスタートできる、画期的な敷居の低さがあった。

実際、「対戦ゲーって怖いじゃん。チーム戦なんでしょ? ミスとかしたら怒られそうだし……」と思っていた俺がTF2をプレイできたのは、そういう気軽さのおかげだ。右も左もわからない初心者でも、ロケランを構えたソルジャーを選んで突っ込んでいけばとりあえずOK。チームにメディックがいなかったら自分が選んで回復すれば、仲間の操作キャラたちが自動的にお礼を言ってくれるので自己肯定感が上がる。

まあ、基本プレイ無料のゲームなので煽られたりすることはあったし、ときどき(というかけっこう)、1人いれば十分な特殊クラスのエンジニアとかスパイとかスナイパーがどんどん増殖して8人になったりしたけど、人生、そういうこともあるよな……という諦めを学ぶうえでのいい修行にはなったんじゃねえかな。たぶん。おそらく。きっと。

TF2が持つある種のユルさというか、グダグダな適当さというのが俺は心底好きだった。新しいタウント(挑発のこと。実行するとキャラが特定のアクションを行う)がリリースされると、試合をほっぽりだしてみんなふざけ出すのが常だったのを思い出す。いま思い返しても笑っちゃうのは、「コンガ」というタウントがリリースされた直後のプレイ。これは使うとキャラクターがコンガというダンスを踊りはじめるアイテムで、コンガを持っていないキャラでも、踊っているキャラに近づいて特定のキーを押すと同じダンスを踊ることができる。結果としてどうなったかというと、

試合そっちのけで踊り狂うオッサンたちの宴が開幕しちゃった。

ひとりでもコンガを踊り出したヤツがいれば、みんなスゥーッとそこへ吸い寄せられていって踊りだし、あっちでもコンガ、そっちでもコンガ、どっちを向いてもコンガを踊るオッサンたちの群れ、群れ、群れ。当時、コンガがプレイヤーからプレイヤーに感染していく様子を指して、英語圏プレイヤーは「ゾンビパニックじゃん」と言ってたが、言い得て妙だったよホント。

さて、オッサンたちが日々めくるめくトンチキ大フィーバーをブチ上げてるそんなゲームの何が俺の人生を変えたかといえば、それはやっぱりファンコミュニティの活発さだったと思う。

足が遠のいて久しいので現状はわからないが、俺が浸かっていた当時、TF2の公式はとにかくコミュニティとの関わりが深かった。なにしろTF2は、ファン自作の装飾アイテムや、タウントというキャラに特定の動作を実行させるアイテムを続々と採用してゲーム内に実装している。しかも、公式が実際に使っているSFMというツールで、ゲーム内モデルをそのまんま動かして画像やアニメーションを撮影することさえできるのだ。もうこれはプロの作品では!? というレベルの短編動画が順位を競う「Saxxy Awards」という公式コンテストもあったくらいだ。

あいにく、俺に3DCG方面の才能は影も形もなかったので、そういう形でTF2に関わることはできなかった。代わりにやっていたのが、TF2公式Wikiの翻訳ボランティアだ。TF2のキャラや武器、ゲームシステムの仕様データが掲載されている公式Wikiのページを各国語に翻訳しているのは、プロの翻訳者たちではなく、TF2を愛するファンたちなのだ。正直、あまり貢献できていた気はしない。見返してみると、Wikiの編集履歴にはやりやすかったページ、好きだったページの翻訳ばっかり並んでいる。けれど、あのころTF2の公式Wikiで積んだ翻訳の経験が、英日ゲーム翻訳者としてのいまにつながっていることは間違いない。

そして、TF2のファンコミュニティに身を置き、プレイや交流を行っていく中で、俺は当時同じコミュニティに属していた人から、ある誘いを受けることになる。

それが、OFFのプレイ動画の字幕制作だ。

そのあとどうなったかは、去年の「ゲームとことば」で書いた記事の通りだ。OFFの有志翻訳を経て、俺は「ゲーム翻訳者」になった。だからそのきっかけになったTeam Fortress 2は、正しく「人生を変えた」ゲームなのだ。

最初に飛びこんだ対人ゲームが、Team Fortress 2でよかったよなあと思う。あのゲームで俺は、対戦ゲーの楽しさと、ファンコミュニティの素晴らしさを知った。Steamをインストールして洋ゲーに触れるチャンスも手に入れた。大げさになるけど、俺はTeam Fortress 2で世界の広さと、自分の可能性を知れたと思っている。

Valveは2までしか数えられないってウワサなのであんまり期待してないけど、Team Fortress 3が出たら嬉しいなあとは今でも思ってる。公式コミックの最終話もいつまでも待ってるぜ、Valve……

(この記事は、Reimondさん主催によるアドベントカレンダー企画、「ゲームとことば Advent Calendar 2022 – ゲームと人生」のために執筆したものです)

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